芝生の縁にある小さな柵の秘密。
BBQ&Co代表の成田です。
明石で生まれ育った僕が、地元・明石公園に感じていること、ひいては日本の公園開発が抱えている課題について紹介したいと思います。
芝生広場の縁に半円のアイアンフレーム柵があります。実はこれって、暗に「芝生に入ってくれるな」というメッセージの名残ということを知っていました?
開かれているはずの芝生広場なのに、入られるのを好まないというジレンマ。
一体どういうことでしょう。
パークマネジメントに大切なものとは。
BBQ&Coは、兵庫県の大蔵海岸や明石公園、大阪府の舞洲緑地のように、行政所有地である海岸や公園、緑地に新しい価値を加える「開発」を手掛けてきました。依頼を受けると僕らは必ずその土地に何度も通い、その土地の特性を十分に生かした再生プロジェクトを提案・展開しています。
僕らが大切にしている価値観は「天の時、地の利、人の和」。
このことは以前の記事でご紹介しています。
入っていい? 入っちゃダメ?
明石公園は、JRと山陽電車の明石駅前に広がる、明石城跡を中心に作られた都市公園です。球場や競技場、県立図書館、お堀や池もあり、誰もが利用できる芝生広場もあります。
いま僕は「誰もが」と書きましたが、この芝生広場、芝生の縁に半円の低いアイアンフレームが連なっています。
ヒョイとまたげる高さとはいえ、これがあると、芝生に入る動きの滑らかさを失ってしまうと思いませんか?
僕は両手にソフトクリームを持ったお父さんがフレームにつまずいて台無しにしてしまう光景を目にしたことがあります。
そして小さな子どもやベビーカーでは砂利道を通って大きく迂回して、アイアンフレームの切れ目から芝生に入る他ありません。
僕らは以前、「誰もが芝生を楽しめるように、この柵を取ったらどうか」と公園管理団体にお話したことがあります。でも、この柵はそう簡単に撤去できるものではないのです。
それはなぜでしょう?
公園にかかる見えないルールの壁。
日本には「都市公園法」という法律があります。
もともと1957年に施行された決まりで、2017年に少し改正されました。Park-PFIという制度が加わり、僕らのような民間業者が公園の運営に関わることで、公園運営を維持し、パブリックスペースの質を高めようという流れになってきています。
僕らは理想とする公園を「開発」するために、この都市公園法とずっと向き合ってきています。
パークマネジメントという観点は、今、世界中で当たり前のように展開しています。従来の公園に手を加え、その土地や住民の志向に合った場所を生み出すことが求められています。
地方公共団体も公園のあり方を見直し、現在のニーズに合わせて変わっていきたいと思っています。しかし、一度作られたルールを変えることは難しく、現状のニーズとは相容れないルールが「居心地の良さ向上」の制約になってしまっているのが現状です。
地方自治体も困っているんです。公園を維持管理、更新するにはお金がかかり、そして現状のニーズに合わせて開発するノウハウも持っていない。整備しようとしてもこれまでの公園ルールを前提にした既成概念に阻まれてしまう。その結果、自治体は公園を持て余してしまい、さびれて置き去りにされてしまう。
困り果てた自治体から「この土地をどうにかしてほしい」と依頼されるのは、この底を打った段階になってからがほとんどです。
文化財指定がもたらす不自由。
加えて明石公園には、特有の事情もあります。
1995年の阪神・淡路大震災で、明石城跡の石垣が壊れました。明石市や兵庫県は復旧したかったけれど、地方自治体には対応できる予算がなかったため、文化財指定を受けて国の予算で復旧させる手段を選びました。
文化財指定を受けると、国から守られる存在になります。つまり「これ以降、姿や形を変えてはいけない」というルールが発生します。
そのため、実は明石公園は、景観を良くするために30センチを超えて地面を掘り返して何かを埋設することも、不必要に生い茂った樹木の伐採も基本的には(申請なしには)できません。
お城や城跡の公園は、昔から樹木がたくさんあったわけではありません。公園化するタイミングで植栽された樹木が、数十年かけて育ち、お城を覆い尽くすほどに伸び切ってしまって現在に至ります。
そのままにしていては景観を損ねるという段階になっても、文化財保護法があるので身動きが取りづらいのが現状です。
「文化財指定されているので、アイアンフレームの柵は外せません」
「芝生に入りやすくなると、維持管理が大変になりますし」
でも、これって非常にディフェンシブな姿勢ですよね。
レガシーに立ち向かい、公園のあり方を変えていく。
僕らはこの状況を悲観的に思っているわけでもありません。
公園は誰もが心地よく過ごせて、「ここで過ごしている自分っていいな」と思えるような場であるべきだと信じています。
そこで、明石公園の場合は兵庫県園芸・公園協会の方々と話し合うチャンスを得て、「僕らが考える理想の公園はこういうもの」「だからこういう改善が必要です」と意見やリクエストをお伝えして、一緒に公園のあり方を考えていくようにしています。
また、兵庫県知事にお会いする機会には、公園のあり方を変えたいと伝えています。
「頑張ってくださいね。公園はもっと自由であるべきだ」
そんなメッセージをいただいたこともあります。
そう、みんなこれから公園が進むべき方向はわかっているんです。ただ、現状の大きな壁をクリアする方法は誰もわかっていません。行政や外郭団体はコンサバティブな雰囲気もあって、僕らが提案することは少し飛躍したことに感じられるようです。
僕らは、行政に何か特別なことをしてほしいわけでも、新たな予算をかけてほしいとも思っていません。
行政が公園にかけているコストの中で、僕らの力を使ってできることをさせてほしいと思っています。それだけでも公園の景観と居心地はかなり変えられるはずです。
例えば、荒んだ公園を美しくするには、敷地全体を一旦すべてフラットにして段差がない作りにして、芝刈り機の車が広く走ることができる環境さえ作ってしまえば、その後の芝生の育成もスムーズで、管理コストも抑えながら、美しい芝生を維持することができます。
そういう提案をしても、芝生を管理している園芸会社との関係もあり、簡単には状況を変えにくいという行政側のルーティンとバッティングすることもあります。
僕らは都市公園法や文化財保護法、そして地方自治体特有の体制といった、レガシーと向き合いながら、理想の公園づくりを目指しているんです。